STUDIO65536

ガルパンリボンの武者を舞台とした二次創作を書いています。

ガールズ&パンツァーリボンの武者外伝

    夏である。
少女は草原に居た。
昨夜から近づく台風の影響からか
時折、強い風が通りその草原から夏らしさの象徴である夏草の生命力を感じる青臭さや
うんざりする羽虫の存在は気になる程ではない。
    彼女、文彩華は季節にしては過ごしやすい
草原に居た、汗ひとつかかずに。
彼女のおかれた場所が、ただの草原で友人と散策やピクニックを楽しみに来たのであれば
汗もかいていただろう。
友人に向けて微笑んでいたかも知れない。

しかし彼女は汗をかくことすら出来なかった。
何故なら文彩華が草原にただ立っていたのではなく
狭苦しい鉄製の箱、戦車の中に半身を隠し
ハッチから体を乗り出していたのだ。
草原と言う戦場に強い風を顔に受け、
ドロドロとしたガソリンエンジンの音を耳の片隅に感じながら
戦車で撃破しなければならない「敵」を
待ち受けていた。
車中に居る友人であり級友であり同じ選択学科を受けているふたり、と。

「解放より勝利、革命よりの連絡はまだか」

突然、ヘッドセットから声が飛び込んできた。
黒板を爪で引っ掻いたような不快感が文彩華を襲う。
いや、黒板を引っ掻いた音の方がまだまし、かも知れなかった。
2号車「解放」車長の朴志宇である。
志宇の車両は文彩華の乗車車両から数メートル離れた草むらに
同じようにガソリンエンジンをアイドリングさせていた。

「勝利より解放、連絡なし。目視確認中」
彩華はぶっきらぼうに言い放つ。
「索敵に出てもう20分、何をやっているんだ!革命の車長の戦意に疑問を感じるぞ!」
「集中しろ、見逃すぞ」
「わたしを誰だと思っている、学園艦風紀指導委員、朴志宇だぞ!
「ああ、わかっている。しかしここは戦場だ。」
指導委員の名で弾が避けてくれればいいがな、と、続けようと彩華は続けようとしたが、
やめた。
恐らく志宇は、緊張を通り越して恐怖しているのだ。
元々ただの風紀指導委員として、
わたしたちの監視役としてこの場にいるだけの彼女に
何ができるわけがない。
部活動として戦車道を選んでいる訳でもなく、
ただ親の受けがいいからと、選択科目に戦車道を選び、
事あるごとに風紀指導委員風を振る舞い、
資本主義的堕落だ、と、
後輩が買い食いしていたアイスクリームを取り上げ目の前で食べ始めたあの女。

朴志宇。

アイツは実戦はこれが初めてだ。
畜生、もう少しまともな、
ただ黙って待機する程度の事が出来る仲間がいてくれたら。

実戦が初めて。

あたしも同じじゃないか。

そう、文彩華が所属する学校
白頭山朝鮮高級女学校は戦車道公式戦は愚か
対外試合すら組めない立場であった。